焼物 (Poteries) |
|
アルザスの焼物の生産地として有名なのが、北アルザスのアグノー(Hagunau)の森沿いにあるスフレンハイム(Soufflenheim)とベッチュドルフ(betschdorf)である。これらの村で焼物が盛んに行われるようになったのは、アグノーの森で焼物用の土と火をおこすのに使う薪が豊富にあったからであり、現在でもこれらの村では、多くの焼物屋が道路沿いに軒を構えている。もちろん、焼物屋はこれらの村にのみ限定されていたわけではなく、昔は各村に焼物屋がいて村人に素焼きの焼物を提供していた。二つの村に代表される焼物は、作り方も特徴も異なっているが、普通は好みによって使い分けられるのではなく、はっきりとは分けられないまでも用途による違いがあり、その用途に応じて二つの焼物が使い分けられている。なお、焼物の伝統的な絵柄のモチーフとして、花、ハート、犬(これらは愛と忠実さの象徴)、鹿、オンドリ、鳥(これらは多産の象徴)、麦(力強さ、長寿の象徴)などをあげることができ、ケーキ型の場合には、行事によって異なる形の型が用いられていた。
スフレンハイムの焼物 (Poteries de Soufflenheim) |
|
スフレンハイムでは先史時代から焼物が作られていたと考えられている。12世紀のホッヘンシュタウフェン家の時代には、アグノーの森に無償で粘土を取りに行く権利が与えられていた。作り方は、粘土をこねて形を作り、乾かし、彩色を施し、ニスを塗って焼き上げるというものである。スフレンハイムの焼物の種類は、日常の料理に用いられるものが中心で、大小様々な皿、スープ入れ、カップ、水差し、ケーキ型、つぼ、花瓶などである。色は、黄色、茶色、赤、青、緑など多彩で、昔から使われてきた絵柄には、花や鳥、象徴的な模様があり、ときとしてことわざなどが添えられている。20世紀に入ると、エルシャンジェール(Elchinger)が現れ、それまでの伝統的な焼物だけでなく、アール・ヌーボーやアール・デコ様式の影響を受けた作品を作った。
1.結婚の記念品 (poteries de mariage)
水差し(cruche)
皿(assiette):上部に夫婦の名前が記されている。中央では、夫婦を表す2羽の鳥が向かい合い、その下のハートの中には結婚した日付が記されている。
スープ入れ(soupiere):夫婦の名前、結婚した日付がある。蓋の上では夫婦を表す2羽の鳥が向き合っている。
2.ケーキ型 (moules a gateaux)
クーグロッフ(kougelhopf)は、一般にあらゆる祭のときに出されるが、行事によっては決まった型でケーキが焼かれることがあった。生地は、《復活祭の羊 agneau de Paques》のものをのぞけば、普通はどれも同じである。
クーグロッフ(kougelhopf) : 左のものには1878年の日付がある。右は19世紀のもの。
おくるみの中の赤ちゃん(poupon emmaillote) : 幼児洗礼用
魚(poisson):イエスの象徴で、新年用
ザリガニ(ecrevisse):結婚式用。ザリガニは多産と繁栄の象徴である。
星(etoile):クリスマス用
百合(lys):エピファニーの日や王の誕生日用。
イエスの聖心(sacre-coeur de Jesus) : ハート型は婚約や結婚のさいに使われるがここにあるようなイエスの聖心型(中に茨の冠模様や羊が見られる)は、四旬節の週に見られるものである。
3.皿 (assiettes)
復活祭のウサギ(lievre de Paques) :皿の記述は「三羽のうさぎに三つの耳、でもそれぞれが二つの耳を持っている」というもの。追いかけっこをしているため、耳が重なり三つしかないように見えている。ウサギは春の女神オスタラのお気に入りの動物で、多産性の象徴であり、それらがぐるぐる回ることにより永遠の多産性を表している。一方で、耳が作り出す三角形は、キリスト教的に解釈すると三位一体を表す。
3匹の魚(3 poissons ) : 復活祭のウサギと同様の構図になっている。魚はイエス・キリストを表す。
コンスクリ(conscrit) : コンスクリとは「徴兵適齢期の若者」のこと。ここでは、リボンのついた帽子、白いはかまを身に付け、手に杖を持ったコンスクリ独特の姿が描かれている。
4.その他 (d'autres poteries)
聖水盤(benitier)
犬の貯金箱(tirelire)
靴(sabotine) : 暖炉の上に置く飾物。19世紀末。
ベッチュドルフの焼物 (Poteries de Betschdorf) |
|
ベッチュドルフの焼物の特徴は、その作り方にある。焼物の絵柄は、灰色地にコバルト・ブルーで描かれるだけなので、スフレンハイムのそれに比べると色彩的な華やかさはないが、モチーフは様々である。ベッチュドルフの焼物の最大の特徴は、焼物を窯で焼いている最中に訪れる。釜の中の温度が最高に達したときに、中に、料理用の塩とブナの皮を混ぜたものを投げ入れるのである。するとそれらは一瞬のうちに気化し、塩に含まれるナトリウムと粘土に含まれるケイ酸が化学反応を起こして、水ガラスと呼ばれる透明な膜となって焼物を被い、これがニスの役割を果たすのである。ベッチュドルフの焼物の種類は、どちらかというと食品の保存を目的としたものが中心で、塩や胡椒などの調味料入れ、脂、バター、ピクルス、卵、キャベツなどの保存用の瓶や、ワイン、牛乳、酢、オード・ヴィの保存用の容器などだが、他に花瓶、植木鉢入れ、ビールジョッキ、コップなども作られていている。
ビールジョッキ(chope de biere) : 星型は、ビール組合のマークを表す。
油瓶(cruche d'huile)
その他 (d'autres poteries) |
復活祭の飾り(decor de Paques)
クリスマスの飾り(orements de Noel)
聖ニコラウス(Saint Nicolas)